マコマコ通信 No.64

奈良公園と僕の青春

奈良公園と僕の青春

ふたつの出会い

近鉄奈良駅から数分歩くと、目の前に広がるのは一面の緑。
やわらかな若葉から、深く濃い木々の緑へ――まるで緑のスペクトルに包まれるような感覚でした。
もうひとつの出会いは「鹿」です。
どこを見渡しても鹿、鹿、鹿。
いったい何頭いるのか見当もつかないほど。
その数に驚きつつ、すぐさま鹿せんべいを購入すると、わっと鹿たちが寄ってきます。
人懐っこいその仕草に、思わず笑顔。
手を伸ばして撫でてみると、やわらかな毛並みに、心まで和みました。
特に小鹿は可愛らしく、ディズニー映画の「小鹿のバンビ」を思い出させます。
奈良公園内の少し高台に登ると、東大寺の大屋根が真下に見えて、その壮観な眺めに思わず息をのみました。
この風景を初めて見たとき、「ああ、いい土地に来たな」と心から思えたのです。
奈良県立医科大学へ入学。
奈良での60年の生活の第一歩が、こうして始まりました。

はじめての下宿生活

高校までは名古屋で家族と暮らしていた僕にとって、奈良での一人暮らしは初めての経験。
親元を離れての下宿生活。
最初は自由を楽しむ一方で、夜になるとふと寂しさが押し寄せ、「孤独ってこんな感じなんだな」と、しみじみ思ったりもしました。

洗濯と生活革命

入学当初は、授業も本格的に始まらず、時間を持て余す毎日。
そんな中、ひとり暮らしの生活は、すべて自分でこなさなければなりませんでした。
食事は外食中心。洗濯は――すべて手洗い。
当時の下宿に、洗濯機などあるはずもなく、洗濯板を使ってゴシゴシとこする毎日。
しかも洗剤の性能もいまひとつで、シャツの襟の垢ひとつ落とすのも一仕事。
「何が一番しんどかった?」と聞かれれば、間違いなく、洗濯、洗濯、また洗濯!
いまのように、ボタンひとつで洗濯も乾燥もしてくれるドラム式洗濯乾燥機などが登場した時代に生きていたら、どれだけ楽だったことか。
洗濯機、乾燥機、全自動――。
これらが家庭にもたらした変化は、まさに「生活革命」と呼ぶにふさわしいものでした。
家電がどれだけ主婦の負担を減らし、生活を変えてきたか。
若いころの手洗いの日々を思い出すたびに、そのありがたさをしみじみ実感します。

行事のある街で

奈良公園周辺には、正倉院、興福寺、東大寺、そして国立奈良博物館と、歴史ある建造物がひしめいています。
1月15日は若草山の山焼き、東大寺のお水取り、秋の正倉院展、鹿の角切り……。
1年を通じて多くの行事があり、学生の僕はひとりで、せっせと足を運びました。
ただ、どこに行ってもカップルだらけで、「来年こそ彼女と来よう」と心に誓うのですが……まあ、そう簡単にはいきませんよね(笑)。

奈良公園は、僕の原点

今でも奈良公園を訪れると、あの頃の空気、匂い、風の音、そして自分の若さが一気によみがえってきます。

不安と期待を胸にひとりで始めた大学生活。
迷いながらも少しずつ前に進んでいた、あの時間――。
奈良公園は、そんな僕の原点です。

文 夏目誠

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